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お労しや兄上 目薬

Author:unloginuser Time:2024/06/29 Read: 4516
お労しや兄上 目薬

お労しや兄上、目薬

薄明かりの灯りが、障子越しに部屋に差し込む。
春の雨は、しとしとと、静かに降っていた。

「兄上、お目覚めですか?」

優しい声が、静寂を破った。
ベッドに横たわる男は、ゆっくりと眼を開けた。
それは、若くして家督を継いだ、若き当主・政宗であった。

「ああ、雨か。静かな雨だな。」

政宗は、かすれた声で答えた。
彼の目は、疲労の色に染まり、かすかに赤く充血していた。
数日前からの徹夜作業が、体に堪えているのだ。

「兄上は、いつもお仕事ばかり。少しは休んでください。」

目の前に立つのは、政宗の妹・美奈子だった。
彼女は、政宗の顔を見つめ、心配そうに言った。

「心配かけてすまない。だが、今はまだ、休むわけにはいかないのだ。」

政宗は、苦しそうに微笑んだ。
彼は、領民を守るため、日夜、働き続けていた。
その責任感の強さが、彼の体を蝕んでいた。

「兄上…」

美奈子は、何も言えずに言葉を詰まらせた。
彼女は、兄の苦労を目の当たりにして、胸が痛んだ。

「ところで、美奈子。何か持ってきたのか?」

政宗は、美奈子の手に目を向けた。
そこに、小さな瓶が握られていた。

「はい。これは、目薬です。兄上、最近、よく目が疲れているでしょう? 少しでも楽になるといいなと思って。」

美奈子は、そう言いながら、瓶を政宗に手渡した。
それは、彼女が、薬草の知識を持つ老医師から、特別に調合してもらった目薬だった。

「ありがとう、美奈子。心優しい妹を持つ私は、幸せ者だな。」

政宗は、美奈子の言葉を聞いて、温かい気持ちになった。
彼は、妹の優しさに包まれ、少しだけ疲れが癒された気がした。

「お労しや兄上。どうか、ご無理なさらないでください。」

美奈子は、そう言うと、政宗の額にそっと手を置いた。
政宗は、妹の温かい手に触れ、再び安らかな眠りについた。

雨は、静かに降り続き、夜は更けていった。
部屋には、優しい灯りが灯り、二人の静かな呼吸だけが響いていた。
そして、政宗の夢には、妹の笑顔が輝いていた。


この物語は、政宗と美奈子の愛情深い関係を描いています。美奈子は、兄の疲労を目の当たりにして、彼のために目薬を用意します。これは、彼女の愛情と優しさを示す象徴的な行為です。政宗は、妹の思いやりに心を打たれ、少しだけ疲れを忘れ、安らかな眠りにつくことができます。この物語は、家族の絆と、互いを支え合うことの大切さを教えてくれます。



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